PROCESS 02. リサーチ

お弁当容器の
捨て心地を考える

市販のお弁当は、いつも捨てるのがうしろめたい。そんな容器の捨て心地を考えることから、お弁当容器の開発ははじまりました。もっと人にとっても、環境にとっても気持ちよく捨てられる容器になるには、どんな改善点があるのでしょうか。

ここでは、わたしたちがお弁当容器の廃棄を考える上で大切なポイントとしてきた視点とリサーチを共有します。環境問題をはじめ、生活習慣、現状のインフラ設備、衛生観の変化など、食品容器の廃棄の世界は想像以上に多領域にまたがり、複雑に絡みあっていました。それをできるだけシンプルに、思考のプロセスとして整理したいと思います。

お弁当容器は最も身近な使い捨て

お弁当というカテゴリに限った生産・消費のデータはあまり調査されていないため、まずは少し大きな視点から、お弁当容器がどのような存在なのか、考えてみたいと思います。

私たちの食生活は、家庭で調理する「内食」、出来合いの食事を購入する「中食」、家庭外で食事をとる「外食」で構成されており、お弁当はそのうちの中食にあたります。

日本惣菜協会のデータによると、2018年の中食市場は約102億円。10年間の伸び率は127%と大きく拡大しており、共働き家庭の増加といったライフスタイルの変化とともに、お弁当や惣菜の需要が増加してきたことがわかります(図a)。中食にはパッケージが不可欠であるため、中食が拡大したことで容器包装の廃棄量も増加したと考えられます。

さらに首都圏では、お弁当が惣菜やおにぎりをおさえて、「1週間でもっとも購入頻度が高い中食」であるという調査結果が出ています(図b)。
裏を返せば、中食のうちお弁当容器は1週間でもっとも捨てる頻度が高い容器といえるのかもしれません。

ゴミ箱を一杯にするお弁当容器

日頃から捨てる機会の多いお弁当容器ですが、このプロジェクトではお弁当容器を捨てるたびに感じていたストレスに着目しました。
そのストレスのひとつが、「ゴミ袋のなかでかさばること」です。空になったお弁当容器を一つ捨てるだけで、すぐにゴミ袋が一杯になる。その非効率な性質が、他のゴミを一緒に捨てることができない、ゴミ袋の口がしばりにくい、ゴミ袋がもったいないといった心的負担を生み出しているのだと考えました。

図cにあるように、全国では平均年間約59万トンの家庭ゴミが出ています。そもそもたくさんのゴミを捨てながら暮らしている私たちですが、お弁当容器のような「うまく捨てられないゴミ」は、環境問題への意識が高まるほど罪悪感を生み出す原因となります。

c.都道府県別 年間家庭ゴミ排出量(2018) c.都道府県別 年間家庭ゴミ排出量(2018) 北海道 青森 岩手 秋田 宮城 山形 福島 茨城 栃木 群馬 埼玉 千葉 東京 神奈川 新潟 富山 石川 福井 山梨 長野 岐阜 静岡 愛知 三重 滋賀 京都 大阪 兵庫 奈良 和歌山 鳥取 島根 岡山 広島 山口 徳島 香川 愛媛 高知 福岡 佐賀 長崎 熊本 大分 宮崎 鹿児島 沖縄
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一般家庭で捨てられる容器包装の割合を見てみると、重さが全体の約25%であるのに対し、容積は全体の約60%を占めています(図d)。軽くて大きいというパッケージの性質上、多くの使い捨て容器が廃棄先でかさばり、限られた空間を消費しているということです。

ちり紙を自然と丸めて捨てるように、廃棄に適した大きさまで減容化して捨てること。そこには、廃棄行為をより心地よくする側面があるのではないでしょうか。環境負荷を軽減することへのインパクトは決して大きくないですが、捨てる瞬間のストレスや罪悪感を減らすことで、目を背けるように捨てるのではなく、廃棄という普遍的な行為にまずは向き合うことができるようになると考えています。

できないより
しなくていいを選びたい

お弁当容器のもうひとつの捨てづらさが「分別」です。分別はもっとも身近でできる取り組みのひとつですが、面倒な気持ちやどう分別していいかよくわからないことから、うしろめたい気持ちに目をつむりまとめて捨ててしまうこともしばしば……。

多様な要素で構成されているため、お弁当の分別が複雑なのも事実です。たとえば、容器やフタ、外装フィルムは「プラスチック製容器包装」という資源ゴミですが、バランやスプーンは容器包装ではないので「可燃ゴミ」にあたります(地域によっても異なる)。このように、同じプラスチック素材でも用途に応じて分別先が違ってきます。

プロダクトを考えるうえで、なるべくシンプルに分別先を揃え、まとめて捨てられることもスムーズな廃棄を生み出すポイントです。ただ、分別先の処理が与える環境への影響は、注意深く考えなければなりません。

捨てられるからこその素材選び

お弁当の分別について触れましたが、実は、お弁当容器はリサイクルしにくい容器包装のひとつでもあります。その理由は、どうしても食品で汚れてしまうから。食べかすや油汚れ、強いにおいが付着している「汚れのついた容器包装」は、他のゴミにも汚れを移し、再生純度を下げるといった弊害があるため、資源ゴミではなく可燃ゴミの対象となります。

しっかりと汚れを洗い落とせば資源ゴミに出すことも可能ですが、お弁当を食べるユーザーに洗うという工程を強いるのは難しくもあります。皿洗いといった家事を減らすためにお弁当を選んでいたり、職場や外出先で食べることも多かったり、食器を洗う必要がないという点はお弁当の魅力のひとつであるため、数ある容器包装のなかでもお弁当容器はリサイクルを促しがたい性質があるといえます。

PETボトルリサイクル推進協議会によると、2019年のペットボトルの回収率が93%。それに対し、プラスチック容器包装は57%、紙製容器包装は24.5%(図f)と、容器包装のリサイクルはまだまだ浸透おらず、その多くが捨てられています。さらに汚れるという条件が加わることで、資源化のハードルがますます高くなるお弁当容器には、リサイクルだけでなく、捨てられることを念頭に入れた環境配慮へのアプローチが必要なのではないでしょうか。

わたしたちはその手段のひとつが、素材選びだと考えます。廃棄後の環境への影響をはじめ、その素材が使われることで自然資源はどのように消費されるのか、製造過程でどれほどのCO2が排出されるのか。材料を採取から廃棄まで、素材が持っている影響をしっかりと精査して選びとることもまた、環境負荷を減らすことにつながります。

使い捨ての規制とコロナ後の需要拡大

世界中でシングルユース(使い捨て)・プラスチックの規制がここ数年で加速してきた一方、感染症の拡大によってその需要が再び増加するという現象が起きています。

たとえば、フランスでは2020年1月からプラスチック製カップや皿の規制施策がスタート。段階的にカトラリー、果物の包装と対象を増やし、代替素材の製品に切り替えていく方針です。同年、中国でも長期的な削減・代替施策が発表されるなど、使い捨てプラスチック製品の規制に踏み込む国が増えてきています。

そのような動きがある最中、世界中で未曾有の感染症拡大が起きました。感染を避けるため外食市場が縮小したことでテイクアウトやデリバリー販売が増え(図g)、規制傾向にあった使い捨て容器の需要も増加しています。

衛生面の管理がしやすく、家事の負担も減らす使い捨て容器は、たしかに非接触やテレワークといった価値観に適しているといえるでしょう。しかし同時に、容器の廃棄量も全国的に肥大化。ゴミを捨てるストレスはむしろ増えているのかもしれません。

新しい暮らし方や経済活動になじみ、環境への負荷に加え、人がものを捨てることへのストレスを減らせる使い捨て容器が新たに求められています。