PROCESS 01. インタビュー

環境問題の変遷と
新しい包装資材の可能性

企業や政府による脱プラスチックへの取組みや、グレタ・トゥーンベリ氏への注目など、環境問題に対する意識はますます高まり、そのトレンドはめまぐるしく変化しています。そこで、環境配慮パッケージシリーズ「GREEN PACKAGING」※1などの開発に取り組む大日本印刷株式会社(DNP)包装事業部の方々に環境問題の変遷やサスティナブルという考え方の動向、新しい包装資材についてお話を伺い、パッケージデザインに携わる会社としてどんな視点や問題意識を持つべきなのかを考えました。

環境について世界の流れ

原(NDC) 私たちはパッケージデザインを多く手掛けていますが、包装資材そのものが変わってきているので、少し遡って素材そのものについて勉強させていただきたいと思います。

片平(DNP) 過去30年ほどの間に環境についての盛り上がりが2回ほどありました。1990年頃の環境ホルモン・ダイオキシン問題と、2000年頃の地球温暖化問題です。現在では、海洋プラスチックゴミの問題をきっかけに、環境問題が身近に感じるようになってきたと思います。まずは環境に対する共通認識を持ち、それをベースにアイデアを出し合える場を作っていけたらと思います。

最近ではグレタさんの「Fridays for Future 」が話題になり、世界に広まって国連でも取りあげられるようになりました。彼女は私たち大人に「やるのかやらないのか」と問いかけていますが、私の個人的見解では、Noの選択肢はない、「Yes, & How」 それが今の世の中になっていると思います。トランプ大統領はパリ協定からの離脱を表明しましたが、米国内の自治体や業界団体が「We are still in(我々はまだ批准している)」を宣言しました。企業としても環境問題の解決に向け、取り組んでいかなければならない時代であると強く思っています。

ペットボトルの変遷とプラスチック製容器包装のリサイクル

片平 ペットボトルのパッケージについてその変遷をお話しします。飲料用のペットボトルは80年代に誕生しました。当時、飲料メーカーに納品される空のペットボトルは、商品を販売している時と同じ形状のまま流通していましたが、DNPは、1997年にプリフォームと呼ばれる試験管のような形状をしたペットボトルを膨らます前の小さな状態で運んで、中身を充填する時に膨らます技術を確立しました。物流のコスト削減効果を目指したものですが、今考えるとエネルギーの節約にもなっています。そうして、PETボトルが誕生してから約30年でペットボトルからペットボトルへのリサイクルの仕組みと技術が完成しました。飲料メーカー各社は2030年に向けて、リサイクルペットボトルの導入などを宣言しています。

日本はプラスチック資源循環戦略の中で、2030年までにプラスチック製容器包装の6割をリユースもしくはリサイクルするよう目標値を掲げています。現在のプラスチックのリサイクル状況ですが、サーマルリサイクルまたはサーマルリカバリーという言葉を聞かれたことがあると思います。日本ではゴミを燃やして熱回収することもリサイクルとしていますが、欧州ではリサイクルに含まれません。今後はリサイクルの比率を上げながら使用済みプラスチックの有効利用を考えていきます。

持続可能な社会について

片平 かつては、トレードオフ、すなわち自然から資源を採取したり自然に負荷を与えたら、別の方法で環境貢献すればいいという考え方をしていたと思うのですが、最近では自然に負荷を与えないことが重要という考えに変わってきています。1967年にパックミンスターフラーが提唱した「閉じられた地球という空間で資源を使い切るのではなく、うまく循環させる」ことを実現するシステムや社会を早急に構築していく必要があると考えます。他の様々な企業の取組みを見ていても、そういう潮目がようやく来ていると感じます。

「持続可能」には、「サーキュラーエコノミー」と「生態系サービス」のふたつの考え方があります。「サーキュラーエコノミー」は、これまで捨ててきたものを資源ととらえ、廃棄物を出さずに“もの”が循環し続ける仕組みで、作る段階から再利用を前提としています。また、「生態系サービス」というのは、食物、水、気候をはじめリクリエーションなどの文化的なものも含めて生態系からサービスを受けているということです。それならそのサービスに対してコストを払わなければいけない、それが当たり前ですよね、という考えです。そのふたつの考えをベースにして、経済・社会・自然のバランスを整えてゆく必要があります。そして、SDGsの冒頭にもTransformというワードが出てくるように、changeというニュアンスではなくて”構造そのものを一変”させる方向に向かっていることが重要だと考えます。しかし、こうしたことはDNP一社では立ちゆきません。本日NDCに伺っているのも、ステークホルダーとの共創が必要だと考えるからです。

DNPの取り組み
【DNP大日本印刷 包装事業イメージ映像「DNPが取り組む “新たなリサイクルの環”」】

最近では、3R(Reduce、Reuse、Recycle)に再生可能資源を意味するRenewableを加えて4R となったりしていますが、我々は植物由来の原材料からパッケージを作ったり、来るべき未来に向けてリサイクルに適合したパッケージを作ったりしています。また環境のことを進めていくために2030年、2050年の目標値を立て、社内だけではなく顧客にも伝えています。世の中が騒いでいるから対応しているわけではなく、自らが考えて活動し、環境に対して配慮ある提案をしています。

さらに、共創の新たな取り組みとして、オープンイノベーションの活動を始めています、「パッケージがゴミにならない世界の実現」を掲げて今パートナーを募集中です。

植物由来やモノマテリアルの包材について

片平 今すぐできる環境配慮包材として、植物由来包材があります。これらは原材料の一部にサトウキビを使っていますが、通常のプラスチックとまったく同じ機能を維持できます。なので、使い勝手は今までのまま環境に配慮することができます。一方で、石油原料のプラスチックと見分けがつかないため生活者に分かりづらく、また原材料のコストが高いなどの課題があります。2012年頃から徐々に採用されはじめ、去年ぐらいからさらに採用が増えはじめています。

モノマテリアル包材の“モノ”とは単一という意味です。通常、機能にあわせて複数の素材を組み合わせるところを、一つの素材から作っています。それにより、リサイクルしやすいのが特徴です。世界レベルでさまざまなメーカーがしのぎを削るなか、DNPの、90%以上ポリエチレンのラミネートチューブが海外で採用されています。今後、このモノマテリアル包材がグローバルスタンダードとして、世界の環境素材の中心になっていくと思います。

もう一点、リサイクルをどうまわしていくのかについても取り組んでいますが、これはまだ手探りの段階です。昨年開催された日比谷音楽祭2019ではフードコーナーの出展店舗に同一の食品容器・トレーを使用してもらい、リサイクルのフィジビリティスタディを実施しました。紙とフィルムなどを分別して回収できるボックスを設けて、1日その場に立って、分けて捨ててくださいと呼びかけましたが、中には協力頂けない方もいて、リサイクルの習慣を根付かせるのはなかなか難しいと感じました。

パッケージ開発の今と昔

片平 DNPとしては、2009年頃から3R+Renewable+LCA(環境負荷の見える化)という考え方を取り入れてきました。10年経ってもやるべきことは変わっていませんが、やり方は変わってきています。素材と技術の変化で、もっと軽く、もっと薄く、またリサイクルの仕組みごと作っていくなどです。昨年は、パッケージを捨てるときの状況に注目して調査をしました。例えば、シニアの女性に洗剤や牛乳の容器をいつものように捨ててもらったのですが、簡単に内側に畳んで小さくできる箱を、とても苦労して開いて捨てていました。どうやら箱物を捨てるときには、開いて平らにしなければという行動が染みついているようで、こういうことを観察し研究して製品開発することが、デザインのヒントになるのではと考えています。

環境配慮デザインとは

片平 これまで産業に対してアプローチしていくデザインが主流だったと思いますが、現在は、デザインが社会の課題を解決していくようになってきています。また、もっと人間の本質に訴えかけるようなことも、環境配慮の中で重要な位置づけになると考えています。賞味期限が長期か短期かで売場が変わるなど、商品の品ぞろえも変わるかもしれません。必要な時に必要な分だけ補充するような、ECと宅配ボックスと冷蔵庫が一体化した、負荷が少ない購入が主流になるかもしれません。さらに、ゴミ箱はなくなって、知らないうちにリサイクルに回っているという未来像はいかがでしょうか?私たちは「“捨てる”から“還す”へ」ということを、未来のあるべき姿として設定して何かできないかと模索しています。

 理性を働かせるとリサイクルが進むのかもしれませんが、実際には石垣島などに他国からのゴミが押し寄せています。リサイクルしようとしてもなかなかできない。そうなるともっと根源的なことを考えねばと思うのですが。原料としての石油の枯渇を防ぐというより、植物由来の素材を使えば廃棄しても自然に戻っていくのでは。このあたりはどうお考えでしょうか。

尾見(DNP) パッケージのもっとも重要な機能である、中身を守るということを考えると、物性が安定していることが一番です。外側が変わってしまうということは、中身に影響してしまいます。もし生分解性素材で作ると、賞味期限が短くなりフードロスが出やすくなります。漁具などであれば、海にそのまま残る可能性があるので生分解性材料を使っていくのはいいのですが、パッケージは中身を守らなければならないため、生分解性材料を使うのはかなり難しいというのが本音です。また、生分解性といっても状況によって分解速度が変わるなどの課題があるので、生分解性よりもリサイクルの方に進んでいくと見ています。特にペットボトルに関しては日本では9割近くがリサイクルされています。しかしリサイクルされるからいいやではなくて、ペットボトル自体がいらない仕組みや計り売り、マイボトルの推奨などの動きにも注目すべきだと思います。まずはマイボトルを使って、ペットボトルを使うのであればきちんとリサイクルする、ということが重要です。

 紙もいろいろな用途がありますが、パスタに例えると、うどんやそばが混じった再生パスタではなくて、いいパスタが食べたいといった感覚があると思います。長繊維のものを選んでリファインして作っていく紙もあれば、短繊維でフワッとした紙を作っていく場合もあります。紙そのものがデリケートな素材なので、リサイクルすると質がだいぶ落ちてしまいます。森林伐採が計画的に行われているトレーサブルな素材を使うのなら、燃やしてしまった方がいいのではないかという意見もあります。その点については製紙業界の方たちとDNPさんの意見とは違うのかもしれませんが、どのようにお考えでしょうか。

福岡(DNP) 紙については、おっしゃるようにリサイクルすると素材としての価値がだいぶ変わって来てしまいますので、燃やすという選択もあります。再生紙は劣化するので使いたくないというより、中身との接触やデザインを考慮してバージンのいい紙を使うなど、それぞれ使いどころかなと思います。紙化する時は、従来の物よりも本当に環境負荷が減らせているのか、慎重に検討する必要があります。処理に関してはDNPとしても燃やすことを否定していません。パッケージの汚れ具合や素材によって処理方法を選択していくべきと考えます。

 エコという形だけを追っているような企業もあるような気がしますが。

尾見 企業の取り組み方もそれぞれですが、同じ会社の中でも、部門によって何を重視するのかがバラバラなのが実情です。それなので私たちはさまざまな場で、今回のようなプレゼンテーションをし、紙もバイオマスプラスチックも正解であり、答えは複数あることを伝え、様々な選択肢を顧客に提示しています。そして、全てにおいてCO2を削減できる技術開発を進めています。

 エコに見せたいがために無理に紙に変えるというのは、役に立っているのでしょうか。そう思う一方で、お弁当を食べるときにはプラ容器より紙容器の方が、少し負荷が低減しているような気がしてしまうのですが。もしこれが本当に低減に役立つのなら、私たちデザイン会社は最良の紙のお弁当箱を生み出すべきだという気がするのですが。

片平 紙にポリエチレンのフィルムなどが入っているとリサイクルしづらくなりますが、紙化はメーカーが取り組んで今すぐできる環境配慮のメッセージとしては、有効だと思います。同時に2030年、2050年に向けて各企業が何をするかが重要で、今からやっていかないと解決しません。このふたつを同時にやらないと企業経営の先行きは難しいと思います。

 10大河川からのプラスチックを規制しコントロールしたら劇的に変わりますか。

尾見 プラスチックの95%が中国を中心としたアジア・東南アジアからの廃棄で、川に捨ててしまうことが常体化しています。しかし中国の富裕層では意識が高まり、中国政府もこの問題に着手すると表明しましたので、徐々にインフラは整っていくと考えます。

 ペットボトルに関しては、きちんと捨てればリサイクルされていると考えていいですか。

尾見 ペットボトルは再生率が高いです。粉砕して洗って溶かして再生するメカニカルリサイクルが主流ですが、分子レベルまで戻すケミカルリサイクルの技術も進んでいます。

 だいぶ認識が改まって、勉強になりました。日本は紙のリサイクルはとても進んでいると思いますが、日本の産業資材に対する態度は先進国の中でどの程度なのでしょうか。

片平 日本のリサイクルは、紙とペットボトルにおいては進んでいます。しかしペットボトル以外のその他プラスチックのリサイクルは欧州の方が進んでいますので、そこは日本も取り組んでいかなければならないと思います。

その他プラスチックは、一部がリサイクルされ、再生樹脂となります。リサイクルできないものに様々な素材を貼り合せたプラスチックがあります。それらは、せっかく回収されても残渣となってしまうのです。できるだけそれを減らすにはモノマテリアルが普及してゆくことが重要です。

色部(NDC) 日比谷音楽祭では分別していただけなかった人もいたとのことですが、仕組みを変えるなどのアプローチも大事ではないでしょうか。素材ではなくて、人へのアプローチという観点で研究されているものがありますか。

片平 ここはぜひ力を貸していただきたいところです。捨てるところへのアプローチはあまりしてこなかったと思います。「人から考える」という視点は重要で、捨てるシーンや行動を見る必要があります。それをどう表現するか、ぜひ共創していきたいです。植物由来と言っても伝わらないので業界でマークを作るとか。しかしそれだけでもないだろうと思っています。色がついたプラスチックをリサイクルしてできた“もの“は、鈍い色になるのですが、それを美意識として、捉えてもらえるかどうか。それをあえて生かせるアイデアや、いいものとして感じてもらえるアイデアを作り出していきたいのです。

撮影:金子シェリー