PROCESS 03. 検証

本当に環境にいい
素材ってなんだろう

プラスチック、パルプモールド、紙……。お弁当容器にはさまざまな素材が使われていますが、実際どの素材を採用するべきなのでしょうか。プラスチックは環境によくないと叫ばれていますが、どの部分がどのような影響を与えるのか、他の素材にするリスクはないのか、わからないまま判断することはできません。偏った観点からではなく、容器をとりまくあらゆる視点から調べた上で素材を選ぶことが、開発する上で重要であると私たちは考えました。

そこで、DNPの包装事業部環境ビジネス推進グループにご協力をいただき、弁当容器素材の比較評価を行いました。材料の調達から、容器の製造、利用シーンまで段階にわけてシミュレーションし、容器開発における3つの観点から素材の得意、不得意を視覚化する試みです。

CONTENTS
  1. 6つの素材候補
  2. 環境、経済、ユーザーの目でみる
  3. 各素材の強みと弱みを比べる
  4. 時代に求められる素材
  5. 捨てた紙器のゆくえ
  6. 絶対に正しいこたえはない

6つの素材候補

今回、比較対象とした素材は、下の6種類です。

まず、流通している市販弁当におもに採用されている素材として、プラスチック(ポリプロピレン)、発泡トレイ(ポリスチレン)、パルプモールド、紙の4種を選び、同じ容量・形状で制作した場合を仮定して調査しました。

また、惣菜容器やサラダカップなどによく使われている生分解性プラスチック、バイオマスプラスチックも同じ条件で比較しています。レンジアップできないといった理由から現在は弁当容器への採用実績はあまりないですが、技術発展により将来的に転用し得る素材として候補に入れています。

環境、経済、ユーザーの目でみる

性質の異なる素材を比較するにあたり、DNPとともに弁当容器のための評価指標を作成しました。

大きくは3つの視点を設定。素材が環境にどう影響するかをみる「環境視点」、店舗での生産性やコストをみる「経済視点」、製品の使い心地や捨て心地をみる「ユーザー視点」。それらを細分化した計9つの指標を設け、点数付けを行っています。

各素材の強みと弱みを比べる

比較評価の調査から見えてきた、各素材の強みや弱みをグラフにまとめました。下の素材別の解説一覧をクリックして、それぞれの特徴を比べてみてください。

環境視点

5
2
4

経済視点

3
1

ユーザー視点

4
5
4

プラスチック

多くのお弁当に採用されているポリプロピレンというプラスチックを使用した弁当容器。

  • 環境視点

    他の素材に比べて、製造から廃棄までの間に多くのCO2を排出する。また枯渇資源である石油を原料としているため、資源の持続性は最も低い。

  • 経済視点

    密閉性が高く食品の品質を長時間保つことができる、用途に合わせて成形しやすいなど製造適性に優れている。また発泡トレイに次いで、安価につくることが可能。

  • ユーザー視点

    耐水・耐油・耐熱性・強度といった機能性が他素材と比べて大変優れている。ただ、容器自体は潰しにくく、廃棄の際にかさばりやすい。また高級感、上質感のイメージは少なく、感性の面では優位性が低い。

発泡トレイ

発泡させたポリスチレンというプラスチックを使用した弁当容器。

  • 環境視点

    枯渇資源である石油を原料としているが、発泡することで石油の使用量を減らすことができるため、製造において排出されるCO2が非常に少ない。

  • 経済視点

    用途に合わせた設計の自由度が高く、コストは比較素材のうち最も安い。一方、非常に軽量であるため、手に取る際に飛んでしまうなど内容物を詰めるオペレーション上では扱いにくいなどの声も。

  • ユーザー視点

    断熱性が特に高く、汁物などにもよく採用されるが、衝撃耐性の低さ、軽量といった特徴から使い心地における上質感は醸成しにくい。

パルプモールド

植物の茎や葉を原料とするパルプを成型した弁当容器。

  • 環境視点

    植物由来の再生可能資源を原料として使用しており、製造におけるCO2排出量はプラスチックに比べ少ない。汚れやすいため、リサイクル性は低い。

  • 経済視点

    平滑なプラスチックに比べ、ゆがみが出やすく密閉性や印刷適正は高くない。溶解したパルプをプレス成形するため、同じ植物由来でも紙より量産におけるコストは下がる。

  • ユーザー視点

    有機的な手触りや重厚感が上質な印象を醸成しており、感性における評価が最も高い。繊維質のため、一度汚れると洗い落とすことは難しい。

内側に耐水・耐油のフィルム加工を施した紙製の弁当容器。

  • 環境視点

    植物由来の素材を原料とするため資源の持続性が高く、製造から廃棄までのCO2排出量も他と比べて非常に少ない。基本的に汚れがあるものはリサイクル不可のため、耐水・耐油性を上げるコーティングが必要。

  • 経済視点

    印刷表現の高い再現性が特徴。金型をつくってプレスする量産方法ではなく、紙を組み立てて成形するため、他の素材より成形コストがかかる。

  • ユーザー視点

    捨てる際に潰して減容化できるなど、易廃棄性は今回の素材のなかで最も高い。プラスチックに比べて強度は下がるが、温かみのある紙らしい質感が使い心地の良さを生み、感性を評価するアンケートでは高評価。

生分解プラスチック

二酸化炭素や水などに分解できるPLA樹脂(ポリ乳酸)。カットフルーツの容器などに使われているが、弁当容器に規格を揃えて検証。

  • 環境視点

    植物由来の再生可能資源を原料としたPLA樹脂は、微生物による長期的な生分解が可能。ただ、製造におけるCO2排出量は多く、現状リサイクル技術も存在しない。

  • 経済視点

    耐熱性が低いためレンジアップが必要な内容物を入れられず、弁当においては他の素材に比べ汎用性が限られる。

  • ユーザー視点

    生分解性素材であるため、枯渇資源素材に比べて廃棄へのストレスは少ない。ただ、コンポスト(微生物の分解による堆肥化)に適した廃棄インフラは現状存在せず、通常のプラスチックと混ぜて再生することもできないため、可燃ゴミ扱いとなり分別がわかりにくい。

バイオマスプラスチック(PET)

さとうきびなど生物資源(バイオマス)を原料とするPET樹脂。サラダなどの容器に使われているが、弁当容器に規格を揃えて検証。

  • 環境視点

    植物由来の再生可能資源を原料として使用しており、他のプラスチックに比べるとCO2排出量も少ない。バイオPETは生分解不可。

  • 経済視点

    石油由来のプラスチックと同等の物性を持ち、高い耐久性や成形性を持つ。原料が高いため、コストはプラスチックよりアップする。

  • ユーザー視点

    石油由来のプラスチックと同様の使用性でありながら環境負荷の低減に貢献できる。石油由来のプラスチックと一緒に分別することが可能。

時代に求められる素材

各素材における評価点の合計を比較すると、以下のような結果になりました。

この検証を踏まえ、お弁当容器の素材には紙を採用することにしました。経済的な生産性はプラスチックの方が優れていましたが、枯渇資源の消費やCO2排出の面において環境負荷がより少ないことや、ユーザーにとって易廃棄性の高い素材であることを重視しています。

ただ、その他の素材が優れていないというわけではありません。紙類とプラスチック類ではパフォーマンスを発揮している分野が明らかに異なっているため、製造するものや利用シーン、生産する地域環境の違い、その時代に求められている価値観の変化によって最適な素材も変わっていくはずです。

よりたくさん、より安いものをつくる消費の時代から、本当に必要なものを選びとる持続の時代へと向かうなかで、下の図のように、環境の持続性、社会への実装性、ユーザーの実用性といった視点をできるだけバランスよく取り入れる。そして、素材が補いきれない分野を設計や体験価値がおぎなう。そこにデザインの意義があるのではないか、と考えさせられる検証となりました。

捨てた紙器のゆくえ

PROCESS 02でもふれたように、食品汚れやにおいなどが付いている容器は可燃ゴミとなります。 また、耐水・耐油性などを与えるコーティング加工を行なっている容器も、再生の阻害になるため焼却対象とされています(図a)。

可燃ゴミは、単純焼却のほかにサーマルリカバリーという方法で有効利用されます。サーマルリカバリーは、燃やすときに生まれるエネルギーを熱や蒸気などとして回収し、発電や周辺施設の暖房、温水供給に活用する手段です。

一方、資源ゴミに出せる可能性もゼロではありません。その条件は、汚れがきれいに洗い落とされていること(食べかすはさっと洗って落とせれば問題ないようです)。そして、資源化できるコーティング加工が施されていることです。

たとえば、揚げもの容器などによくみられる「ハービル加工」は、食品対応の水性ニスを紙に塗布しているため、再生の弊害になりません。また、近年は紙からフィルムを剥離できる再生処理施設が増えており、プラスチックフィルムを貼りあわせた容器も、板紙に再生することが可能となっています。

絶対に正しいこたえはない

焼却と再資源化のどちらがより優れているか、という判断は一概にはできません。

たとえば、自然資源の消費をおさえる点では再資源化が望ましいですが、日本の都市は海外とくらべて焼却技術が高い施設があるため、人口の多い地域では焼却が有効な場合もあります。再資源化のインフラ整備に膨大な環境コストをかけるより、有害物質の排出も少なく、大量の廃棄物をエネルギーとして再利用できる焼却の方が、環境負荷が少なくてすむ可能性があるからです。

重要なのは、「適材適所」を見極めること。持続可能な社会への過渡期にあるいまは、現状のリサイクル技術やインフラを考慮した上で、社会にとって一番いい形態を模索していく時期なのではないでしょうか。今回の比較評価においては紙素材が有効であると判断しましたが、今後プラスチックがより高品質に再生できるようになれば、石油資源を消費しないサステナブルな素材として受け入れられる可能性も大いにあります。いまできる最適なこと、そして視点をぐるりと変えるような新しい技術やアイデアに注目しながら、人と環境と社会が共存するデザインのあり方を探っていきたいと思います。