PROCESS 02. リサーチ

まだまだ知らない
植物生まれのポリ乳酸とは

PLAiRの原料であるポリ乳酸。それは、バイオプラスチックと呼ばれる素材の仲間です。あれ、バイオプラスチックとバイオマスプラスチックって違うんだっけ。ポリ乳酸と他の植物由来の素材は何が違うんだろう。調べるほどに知らないことで溢れているポリ乳酸の奥深い世界について、リサーチしたことを共有します。

そもそもバイオプラスチックって?

生活の中でも少しずつ耳にするようになってきた「バイオプラスチック」。ですが、それが「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」という、2種類のプラスチックの総称であることはご存知でしょうか。

バイオマスプラスチックは、サトウキビやトウモロコシ、パルプといった植物などから作られるプラスチック。その用途は幅広く、レジ袋から自動車のパーツまで多様な分野で活躍しています。また、100%の割合で有機資源が使用される場合だけでなく、部分的に使用される場合にもバイオマスプラスチックと呼ぶことができます。ただし、それらは必ずしも生分解性を持っているわけではありません。

生分解性プラスチックは、一定の環境下における微生物の働きによって、二酸化炭素と水に分解することができるプラスチックのことです。ゴミ袋や農業用のフィルムなど、生分解性を活かせる分野での活用が広がっています。生分解性と聞くと植物由来であると想像してしまいがちですが、中には石油から作られる素材もあり、バイオマスプラスチックとは明確に分けられています。

そして、中にはどちらの性質もあわ持ったプラスチックも存在します。ポリ乳酸(PLA)はそのひとつ。ポリ乳酸はトウモロコシなどの糖分を原料とし、生分解によって自然へと還ることができます。気をつけるべきは、生分解性を持っていたとしても、土や海の中でいつでも分解されるとは限らないこと。温度や微生物の量など、最適な環境条件がそろわないと分解が進まないため「生分解性がある」ことと「生分解する」ことは区別して考える必要があります。

※1 再生セルロースフィルム

2022年におけるバイオプラスチックの生産実績は222万トン。その内訳を見てみると、最も多い素材は植物由来のバイオプラスチックです。全体の47.3%を占めており、石油由来の生分解性プラスチックと比べると約9倍もの量が作られているようです。生産されている素材の種類の多さはバイオマスプラスチックが際立っており、この表に挙がっている11種類の素材のうち9つが植物由来。一括りにバイオプラスチックといっても、実に多様性に満ちた世界が広がっています。

バイオマスプラスチックの出身を辿る

生産されるバイオマスプラスチックのバラエティが富んでいるように、その原料も実に様々な有機資源が使われています。例えば、図bで紹介したポリ乳酸、スターチブレンド、PHAも、同じバイオマスプラスチックでありながら異なる性質の原料から作られています。

バイオマスプラスチックにおいて、主流な原料のひとつが「糖原料」。トウモロコシやキャッサバからとれるデンプンや、サトウキビから搾汁した糖を用いており、市場の流通量が多いポリ乳酸やスターチブレンドはこの糖原料からできています。

一方、PHAは「油脂原料」から作られます。「油脂原料」もバイオマスプラスチックの主な原料のひとつとして知られており、マーガリンのもとであるアブラヤシや、石鹸に用いられるトウゴマなどから搾油して得られます。ただ、PHAの中にも「油脂原料」から作ることができるものと「糖原料」から作ることができるものがあり、どの資源が入手しやすいかといった各国の生産環境の違いによって、用いる原料は選択されているようです。

バイオマスプラスチックの原料は他にもまだまだ増えており、現在は第1世代から第3世代*1まで分類されています。糖原料・油脂原料など食用や可食性資源は第1世代、サトウキビ搾りかすの残渣や森林を間引く際に生まれる木質原料など非可食資源が第2世代と呼ばれます。また、ガスを主に扱う第2.5世代、微生物を用いて生産する第3世代と、地球上の限られた資源を活用していくアイデアはどんどんと進化しているようです。

世界の注目を集めるポリ乳酸 

ポリ乳酸は、PLA(Poly-Lactic Acid)とも呼ばれるバイオプラスチックです。原料にはトウモロコシなどが使われ、そのデンプンからつくる乳酸を重合することでプラスチックとなります。一般的には、再生可能資源のため石油に比べて原料の枯渇リスクが低く、生分解性とカーボンニュートラルの性質を持つとされており、近年ではレジ袋や家電製品のパーツなど身近なところでも使われ始めています。

私たち生活者にとってはあまり馴染みがありませんが、実はポリ乳酸の存在は古くから知られていました。その始まりは、1932年のアメリカ。DuPont社の化学者ウォーレス・カロザース氏によって、低分子量ポリ乳酸は初めて誕生しました。やがて大量生産の時代が始まると、耐久性や加工性の高い石油プラスチックが世界を長らく席巻しますが、1990年代に状況は一変。プラスチック製品の大量廃棄が社会問題になったことで、自然由来のプラスチックであるポリ乳酸が一手に注目を集めました。

90年代以降、現在最大手のNatureWorks社をはじめ、世界各国でポリ乳酸の開発に取り組む大企業やスタートアップが誕生しました。その歩みは環境意識の高まりにあわせて加速しており、2021年から2026年にかけて市場は9.1%の成長を見込まれています。現在は、中国を中心とするアジアの成長率が最も高いですが、さらに市場が成熟していけば、世界の様々なところで身近な存在になる日も遠くないかもしれません。

各国のメーカーと未来への期待

ポリ乳酸の生産は、長らくアメリカのNatureWorks社が牽引してきましたが、ここ数年で様々な企業が台頭し始めています。とくに中国での生産量の増加は目覚ましく、2019年時点で約39万トンだったPLAを含む生分解性プラスチックの生産能力が、1年間で約77万トンに倍増しています*2

急加速の背景には、2020年に中国政府が発表した「プラスチック汚染対策の一層の強化に関する意見」の取り組みが影響しているようです。そこでは、非生分解性プラスチック製品の使用禁止や、代替素材製品の生産推進などに取り組む方針が掲げられました。フランスなどでも同様に国家をあげて脱石油プラスチックに取り組む動きが加速しており、代替素材への期待はますます高まっています。

f. 世界の主なポリ乳酸メーカー

社名(国)公称年産能力(万トン)
NatureWorks(アメリカ)15
安徽豊原集団(中国)10
Total Corbion PLA(オランダ)7.5
浙江海正生物材料(中国)1.5

※2022年5月、ハイケム調べ

各メーカーでは、化石資源の消費削減以外にも、PLAが地球環境に貢献できる側面を独自に公表しています。NatureWorks社が製造するPLA樹脂「Ingeo」は、ポリスチレンなどの従来のポリマーと比較して、製造における温室効果ガスの発生を約80%削減し、非再生可能エネルギーの使用を約52%削減するとしています。オランダのTotal Corbion PLA社が開発するPLA樹脂「Luminy® 」も、石油プラスチックと比較してカーボンフットプリントを75%削減すると算出しています。
各メーカーによって違いがあるため、すべてに当てはまるわけではありませんが、より良い未来に向けて環境パフォーマンスが高いPLAの開発が世界各国で今なお進んでいます。